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地球の大きさよりも遠い人工衛星?(中軌道/高軌道衛星)

こんにちは。TDSCの高橋です。

一口に『人工衛星』と言っても、実は種類によって地球の大きさ以上の高度差があることはご存知でしょうか?
地上から、地球の直径より遠い場所に人工衛星が飛んでいるなんて、驚きですよね。

今回は通信衛星の高度による分類の中でも、『中軌道衛星』『高軌道衛星』の2つについて説明いたします。

高軌道衛星とは?

高軌道衛星の高さ – 地球の直径よりも遠い人工衛星

低軌道衛星と同じく、高軌道衛星の定義はその周回する軌道にあります。
高軌道衛星が周回するのは、『対地同期軌道』と呼ばれる地球衛星軌道で、地球の自転周期と同じ周期であることが特徴です。
その『対地同期軌道』、高度約36,000kmより外側を周回する衛星を、『高軌道衛星(High Earth Orbit=HEO)』と呼びます。
『対地同期軌道』は地球の自転周期と同じ周期で回る・・・つまり、地上から毎日同じ時刻に見上げれば同じ場所にあることになります。
低軌道衛星が地上から2,000km以内であると考えると、高軌道衛星は36,000kmという地球表面から相当高い(・・・というよりは、ここまでくると『離れた』という表現の方が正しいかもしれませんが)場所で地球と通信しているということになります。
地球の直径が12,742kmですから、地球の大きさ以上に離れていることが分かります。

よく聞く言葉『静止軌道衛星』 – 赤道の上空じゃないと静止しない?

よく衛星とセットの言葉として『静止軌道』というワードをネットニュースやテレビ、SNSなどで耳にしませんか?
その『静止軌道』とは、『対地同期軌道』の一種です。『対地同期軌道』の中でも赤道から約36,000km上空を周回するものを『静止軌道』といい、その大きな特徴として「いつ地上から見上げても、必ず同じ方向に存在している」ことが挙げられます。つまり、地上からは常に静止しているように見えることから、『静止軌道』と呼ばれます。
しかし実際には、衛星は地球の周りを地球の自転と同じ時間・・・すなわち24時間で回るために、概ね秒速3.08kmで周回しています。1秒間に3.08kmと思うと、人間が3kmを走破する際の平均タイムが大体15分とのことですから、地上から見て静止するためには、物凄い速度で周回することが分かります。
但し、静止軌道衛星(静止軌道衛星に拘らず衛星)は衛星そのものに推進力を搭載し動いているのではなく、地球は人工衛星に及ぼす万有引力を利用して地球を周回します。すなわち、人工衛星は地球の中心を軸とした等速円運動をすることになります。

なぜ地上から見て静止するためには赤道の周りでなければならないかというと、衛星は例えば緯度45度のところを常に回り続ける、といったことはできません(下図参照)。

衛星が地球の周りを周回するためには、前述の通り地球が人工衛星に及ぼす万有引力を利用しなければなりません。すなわち、人工衛星の軌道の中心は地球の中心と一致しなければならないということになります。

そのため、赤道以外の部分で地上36.000km上空を周回すると、地球の自転に対して斜め、若しくは垂直(ちなみに、垂直の場合は『極軌道』と呼びます)になり、緯度が変わってしまうため常に同じ場所の上空に存在し続けることはできません(=対地同期軌道)。
よって、静止軌道、常に同じ場所に静止するように見えるためには、自転しても距離が変わらない、赤道の上空36,000km上空である必要があるのです。

高軌道衛星のメリットとデメリット – 地球から遠く、独りぼっち

メリット

  • 単一の衛星で運用することができるため、複数衛星の切り替え等の管理が必要ない
  • (静止軌道衛星の場合)常に同じ方向に存在するため、アンテナの方向を固定することができる、衛星捕捉の際に安定する

固定した一方向で1つの衛星とのやり取りのみを行うため、安定した途切れづらい通信を行うことができるのが高軌道衛星(静止軌道衛星)の特徴です。

デメリット

  • 地上との距離が長いため、通信速度に劣る
  • (静止軌道衛星の場合)赤道上空で位置が固定されるため、北極付近など高緯度の場所では利用できない(=地球全土で利用はできない)
  • 乗せる軌道が高い分、そこに到達するまでのエネルギーが多くかかる

単一の衛星で完結する分、それぞれの機構が大掛かりになってしまうこと、また地球との距離が長いことにより電波の到達に時間がかかってしまうことが高軌道衛星の弱点であるといえます。


中軌道衛星とは?

中軌道衛星の高さ – 低軌道と高軌道のあいだ

『中軌道(Medium Earth Orbit=MEO)』とは、地上からの距離が2,000kmより高く、対地同期軌道(約36,000km)の間に位置する軌道を指し、その軌道を周回する人工衛星を『中軌道衛星』と呼びます。
GPS衛星や衛星携帯電話等で利用される中軌道衛星は、低軌道衛星と同じく地上から衛星を見た時には常に動いているため、1つのシステムとして運用する際には 衛星コンステレーション を利用して複数の衛星を連携させることも多いのが特徴です。
低軌道よりも高度が高い分衛星1基ごとのカバー範囲が広くなるため、衛星コンステレーションに必要な衛星の基数は少なくなります。但し、地上との距離が大きくなる分、通信速度は劣ります。


中軌道衛星のメリットとデメリット – 低/高軌道衛星の良いとこどり

メリット

  • 低軌道衛星と比べ高度が高い分1基のカバー範囲が広くなりシステム全体での基数を減らすことができる
  • 高軌道衛星と比べ軌道に乗せるまでのエネルギーが少なくて済む

デメリット

  • 低軌道衛星よりも地上との距離があるため、通信速度に劣る
  • 複数の衛星を管理しなければならないため、衛星の切り替えや管理などの必要がある

中軌道衛星はまさに低軌道衛星と高軌道衛星の中間のような特徴を持っているため、それぞれのメリットとデメリット両方を軽減したような衛星軌道と言えるかもしれません。


軌道による通信衛星の分類

ここまで、低軌道衛星、中軌道衛星、高軌道衛星と地表からの高さによる分類をご紹介いたしました。

通信速度が速くそれぞれのコストは小さいが、数で補う必要があり不安定な部分がある低軌道衛星
通信が安定しており必ず同じ方向にあるため捕捉しやすいが、遠いため通信速度に劣る高軌道(静止軌道)衛星
そしてそれら中間の特徴を持つ中軌道衛星

一口に『人工衛星(通信衛星)』と言っても、実は地球の周りをどんな軌道で回るかによって、全く異なる特徴を持っていることをご説明いたしました。
それぞれ乗せる軌道によって、どのような場面に適しているか・どのような運用を行うかでメリットの生かし方も異なってきます。

低軌道衛星、衛星コンステレーションによる衛星通信の発展や、災害などの緊急時に通信インフラを確保しておくなど防災時のインターネットの重要性、デジタルデバイド(情報格差)地域の解消・・・。現在では様々な方面で人工衛星を利用したインターネット利用が模索されています。衛星通信の世界は今まさに、リアルタイムで広がっているのです。


次回コラム記事では静止軌道衛星の原理についてご説明いたします!

参考資料

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